歌舞伎は格好の日本語教材
これは、歌舞伎(かぶき)を通じて日本語を勉強するサイトです。歌舞伎は400年続く日本の伝統芸能(でんとうげいのう)で、2005年にはユネスコの無形文化遺産(むけいぶんかいさん)に登録(とうろく)されました。
しかし何故(なぜ)日本語教育に歌舞伎を選ぶのか。それは、基本的な歴史用語(れきしようご)や歴史的背景知識(はいけいちしき)を身につけるのに、日本の伝統文化や芸能(げいのう)を通じた勉強が役立つからです。漫画(まんが)・アニメほどではありませんが、日本の歴史に対する関心から日本語の勉強を始める学習者も多くいます。ところが、漫画・アニメが既(すで)に学校の日本語コースで取り上げられたり、インターネットでもたくさんの教材(きょうざい)を入手(にゅうしゅ)できるのに対し、日本語の教科書にさえ、歴史用語はごくわずかしか含(ふく)まれていません。また、日本の伝統文化・芸能を取り上げた教材も限(かぎ)られています。漫画やアニメにも忍者(にんじゃ)ものや侍(さむらい)ものはありますが、正確な歴史的背景知識に基づいていない場合もあり、また学べる歴史用語の数も多くありません。
そのため、日本の伝統文化・芸能に基づいた教材を新たに開発(かいはつ)することにしたのです。
伝統文化・芸能と言っても色々あります。日本の歴史上初めて、庶民(しょみん)のための文化が大きく発展した江戸時代(えどじだい)に限れば、歌舞伎だけではなく、井原西鶴(いはらさいかく)、式亭三馬(しきていさんば)、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)などの読み物や松尾芭蕉(まつおばしょう)の俳句(はいく)もあります。
しかしこれらの読み物と舞台芸術(ぶたいげいじゅつ)は根本的(こんぽんてき)に違います。読み物は作家が一方的に発信(はっしん)するものです。これに対し舞台は、役者(やくしゃ)と観客(かんきゃく)で作り上げる空間です。特に歌舞伎は、観客の反応(はんのう)を見ながら変更を加えることで、現代まで生き続けてきました。その意味で、江戸時代に生まれた芸能でありながら、現代とも繋(つな)がっているのです。
では能(のう)や狂言(きょうげん)はどうなのか。現代でもたくさんの公演が行われています。けれども観客数は限られており、国の補助金(ほじょきん)がなければ存続(そんぞく)することができません。もともと能や狂言は、庶民(しょみん)の娯楽(ごらく)というよりは支配階級の武士(ぶし)の見る高尚(こうしょう)な芸能でした。一方歌舞伎は、江戸時代から現在に至るまで入場料収入で成り立ってきた商業演劇(しょうぎょうえんげき)です。そのため、観客が喜んで劇場に足を運ぶような劇を作り続ける必要がありました。だから歌舞伎は本来(ほんらい)楽しいものなのです。歌舞伎の勉強を通じて歴史用語や歴史的背景知識を身につけるうちに、その楽しさに目覚(めざ)めて、劇場で本物の歌舞伎を見ること。それがこの教材の最終的な目標です。
このサイトでは、歌舞伎の中で名作中の名作と言われる『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』を取り上げます。この作品は、元禄時代(げんろくじだい)(1688-1704)末に実際に起こった赤穂事件(あこうじけん)をもとにしています。『仮名手本忠臣蔵』が大ヒットしたあと「忠臣蔵」と呼ばれるようになった赤穂事件は日本で最も有名なあだ討(う)ち事件で、映画やテレビだけではなく、小説、落語(らくご)、講談(こうだん)、オペラなど、さらには漫画にまでなっています。二十世紀末(にじゅっせいきまつ)までは、12月14日の討ち入りに合わせて12月になると必ずテレビで「忠臣蔵」のドラマが放送されたものです。でも歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』は、その後の「忠臣蔵物(ちゅうしんぐらもの)」とはちょっと違う視点(してん)で作られた劇でした。その違いについて明らかにしたいと思っています。
教材の構成
教材の構成(こうせい)は以下の通りです。第1課では、日本語学習に歌舞伎を使う理由について説明し、歌舞伎を語源(ごげん)とする言葉を紹介(しょうかい)します。第2課と第3課では、『仮名手本忠臣蔵』が誕生(たんじょう)するまでの歴史的背景を述べ、第4課から第7課まで『仮名手本忠臣蔵』を様々な角度から分析(ぶんせき)します。
第1課 歌舞伎を利用した日本語学習の利点と、歌舞伎を語源とする言葉
第2課 戦国時代の終わりと江戸時代の社会
第3課 歌舞伎の発展と赤穂事件
第4課 『仮名手本忠臣蔵』の誕生とそれぞれの段(だん)の主役
第5課 『仮名手本忠臣蔵』の女性達
第6課 早野勘平(はやのかんぺい)の悲劇と人気の秘密
第7課 中間管理職(ちゅうかんかんりしょく)の悲哀(ひあい)
参考文献
教材の作成にあたっては、次の書籍やインターネット・サイトを参考にしました。
書籍
赤坂治績 2012 『江戸時代:武家政治 vs. 庶民文化』朝日新聞出版
大江戸歴史文化研究会・編 2015 『江戸300年の暮らし大全』
PHPエディターズ・グループ
金田一京助・編 2004 『例解学習 国語辞典 第八版』 小学館
金田一晴彦・監修 2009 『小学生のまんが語源辞典』 学習研究社
近藤安月子 2010 『日本語学入門』研究社
白川博之・監修 2016 『日本語文法ハンドブック』 スリーエー・ネットワーク
関容子 2002 『芸づくし忠臣蔵』文藝春秋社
田口章子 2008 『仮名手本忠臣蔵の史実と虚構:服部幸雄・編「仮名手本忠臣蔵を読む」』
吉川弘文館
中村哲郎 2003 『仮名手本忠臣蔵:合評』(『演劇界』2003年1月号)演劇出版社
奈河彰輔・他 2008 『松竹歌舞伎検定公式テキスト』マガジンハウス
橋本治 2012 『浄瑠璃を読もう』新潮社
服部幸雄 2008 『仮名手本忠臣蔵とその時代:服部幸雄・編「仮名手本忠臣蔵を読む」』
吉川弘文館
松島栄一『忠臣蔵』 1964 岩波書店
宮地裕 2010 『日本語学入門』明治書院
水落潔 2002 『わたしの忠臣蔵考」(『演劇界』2002年11月号より)演劇出版社
歴史能力検定協会・監修 2014 『4級 歴史入門:歴検過去問題集』 山川出版社
歴史能力検定協会・監修 2014 『5級 歴史入門:歴検過去問題集』 山川出版社
インターネットサイト
歌舞伎美人 http://www.kabuki-bito.jp/news/4194
goo 辞書 https://dictionary.goo.ne.jp/
KOTONOHA 日本書き言葉均衡コーパス 『少納言』 http://www.kotonoha.gr.jp/shonagon/
コトバンク https://kotobank.jp/
三省堂大辞林 http://www.sanseido.biz/